人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「外資による水源林〜」の本当のところ(2)

不動産投資(投機ではない)の対象には2種類あって、マンションやオフィスビル、駐車場など賃貸等によって定期的に収入のある収益物件と、保養所や更地、原野などの定期収入を伴わない物件に分かれます。

現状の日本では、山林は残念ながら後者に入ってしまうわけですが、収益物件は初期投資と維持管理費が多額になるのに対して、山林は前者ほどはコストがかからない。つまり保有リスクが低いと判断されるのです。本来は健康な森林を維持するためには最低限の手入れと管理は必要だし、自然災害のリスクもありますが、あくまで収益物と比較した場合の話。

したがって、山林は利益はなくとも「資産ストック」としては十分投資対象となるわけです。金持ちは使用目的がなくとも不動産を買う場合があるという行動原理を知らずしていくらこの問題を議論しても意味がないし、対応を誤る可能性があります。納得する必要はありあせんが、理解はしておく必要がある。

そして、購入目的を尋ねて「いや、金があるからです」と答える人がどこにいるか?というのが、本エントリのポイントです。何も答えないのが普通だろうと。だから「購入目的は不明」になるのです。

以上の行動原理は知る限り万国共通。何ジンだろうが、儲けた人の多くはキャッシュを様々な形に変えておく行動をとります。以上のことを知っていれば、今後新興国からの不動産投資圧力が山林原野を含め増えたとしても、経済原則的に考えると突拍子もない出来事ではないと言えるでしょう。

先日外資の山林取得に関して北海道の調査結果が道議会に提出されましたが、古くは昭和47年にアメリカ資本が取得していることが明らかとなり話題となりました。それぞれ数ヘクタール以下の規模が多いものの、近年は新興国の台頭が目立っています。

さて、今後海外資本の土地取得あるいは管理に規制をかけるべきかという議論ですが、安全保障上、または資源管理上何らかのフィルターは必要だろうという意見には賛成です。特に森林は土地所有者だけのものではなく、公共性が高い不動産です。だからこそ林業が低迷する現在においても、その維持管理のために都市納税者から多額の公的補助を頂いているわけです。金はくれ、しかし自分の土地は自由にさせろというのは、もはやこれからの時代には通らないでしょう。

しかし、これは外国資本であろうと国内資本であろうと守らなければならないルールは同じではないでしょうか。国によっては外資の参入にのみ厳しい審査が課せられる制度もあるようですが、これがフェアであるかは検証の余地が大きいように思います。

一方で日本の山林所有の歴史を鑑みると、行き過ぎた規制は資金という血液の循環を阻害する可能性があり、かえって中山間地経済にダメージを与えかねませんから、要は経済行為との微妙なバランスが重要になります。

ここで問題になってくるのは、新しく法制度をつくるか、現制度の強化で対応するのかという課題です。

国内法については、私はとりあえず後者で十分という立場です。国土法、森林法、保安林法など山林の取引と維持に関わる法制度はたくさんありますが、そもそもこれらが十分に機能していないのにまた新しい制度をつくるというのは、いたずらに混乱と経費負担増をまねくだけではないのでしょうか。まあ経費増ということはどこかで誰かが(おそらく無駄に)儲けることになるわけですが・・・

一方、外資の流入についてはこれまでの国際的な約束事などがあるので、にわかに国内法だけでは対応しきれないものでもあります。政治力・外交力を総合的に発揮してもらわないといけないのですが、政治の現状を俯瞰すると先行きは厳しいですね。。

ゴタゴタの背景にあるのが、多くの方が指摘済みの「地籍調査の著しい遅れ」です。

何処から何処までが誰の土地ということが分かっていないのに、どんなに管理の制度を整備しても無意味です。仮に海外資本が日本の森林を買占めようと思っても、物理的に不可能というのが日本の森林管理の皮肉な現実です。

公的山林管理は、法務局の公図・登記簿と都道府県(実質は林野庁?)の森林簿とダブルマネジメントになっていますが、この整合性がめちゃくちゃであり、これらの信用のできないシステム維持のために、多額の税金が毎年投入し続けられているという事実を、国民は認識すべきです。

まずは地籍調査に対して国民的関心を醸成すること、そしてその解決のために集中的に予算と人を配置すること、この2点こそが公共事業がやるべき施策と考えます。GIS整備も良いのですが、優先順位が違うと思います。

また海外の事例で恐縮ですが、これはスイス・チューリッヒ州のGISシステムです。チューリッヒ州は一昨年にやっと地籍調査が完了し、昨年このシステムを整備しました。


土地所有界・面積だけでなく、植生や機能区分、保安林等の森林情報、農業、環境問題、エネルギー政策、人口分布、道路・河川計画、水道・電気等の公共インフラ、公共交通(時刻表まで!)、学校、騒音、大気汚染、レクリエーション計画etc..産業と市民生活に関わるあらゆる項目がひとつのシステムで見られるようになっています。それぞれの部署が別なシステムを作るよりも圧倒的に低いコストで整備・維持ができますし、市民も行政も土地所有者もグランドデザインの現在と将来を掴みやすくなっています。

これこそ土地管理の公共インフラというものではないでしょうか。

日本の縦割り行政では無理!ではなく、せめて何のために経費をかけてやるのか、できないのなら中途半端なことはしない(税金を使わない)という思考と決断をしてほしいものです。チャレンジするなという意味とは違います。

<その3へ>

by yfh_731 | 2011-02-21 11:37 | 世相 | Comments(0)